鵞足炎

階段を降りるとき、膝の内側がズキッと痛む。それは鵞足炎(がそくえん)かもしれません。原因と、家でできるケアをお伝えします。

症状とは

鵞足炎は、膝のどこが痛む病気?

痛むのは、すねの骨(脛骨)の内側です。膝のお皿より少し下。関節の隙間から4〜5cm下の内側が目安とされています。指で探すと、押して痛い一点が見つかる方が多いです。

名前の由来は、ガチョウの足。太ももから降りてくる3本の筋肉の腱が、ここに集まって付いています。その形が水かきのある足に似ているので、「鵞足」。

名前はかわいいのに、痛みは全然かわいくありません。

人差し指を立てて、鵞足炎の豆知識を伝える若林院長

豆知識

「炎症」だけが原因ではありません

昔は「滑液包という袋の炎症」と説明されることが多かった病気です。近年は、腱への負担や周りの組織の問題も関わるとされ、「鵞足部痛症候群」と呼ぶ場面も増えています。炎症を抑えるだけで終わらせない、というのが今の考え方です。

体のしくみ

鵞足をつくる3本の筋肉

鵞足に付く筋肉は3本。縫工筋(ほうこうきん)、薄筋(はっきん)、半腱様筋(はんけんようきん)です。

鵞足をつくる3つの筋肉
  • 縫工筋:体で一番長い筋肉です。名前は「仕立て屋さんの筋肉」という意味。あぐらをかいて針仕事をする姿勢で使うからだそうです。
  • 薄筋:内ももの細長い筋肉で、脚を閉じる働きがあります。
  • 半腱様筋:太もも裏の筋肉の一員で、股関節を後ろに伸ばします。

3本に共通する仕事は2つ。膝を曲げることと、すねを内側にひねること。

歩く、走る、階段を降りる。そのたびに、この3本は膝の内側を引っぱり続けています。

原因

原因は「使いすぎ」だけではありません

原因は、いくつかが重なっていることがほとんどです。

  • 運動量の急な増加:ランニング、サッカー、自転車など
  • 膝が内側に入るクセ:X脚、お尻の筋力の低下、足のアーチの低下(扁平足)
  • 太もも裏・内ももの硬さ:腱がいつも引っぱられた状態になります
  • 体重や年齢:変形性膝関節症のある方に多いと報告されています

運動量については、気になる数字があります。

デンマークのNielsenらが2014年に発表した研究(JOSPT)では、初心者ランナーが2週間で走る距離を30%より多く増やすと、距離に関連するケガが出やすい傾向がありました。10%未満の増加の人と比べて、危険度は約1.6倍です。ただし統計的には、ぎりぎり差がつくかどうかの数字でした。

人差し指を立てて豆知識を伝える若林院長

豆知識

「1週間で1割まで」に、はっきりした根拠はありません

よく聞く「1割ルール」は、実は研究で強く裏づけられたものではありません。上の研究でも、1割以内か1〜3割かで、はっきりした差は出ていません。ただ、いきなり3割以上は避けたほうがよさそうです。休んだあとの再開ほど、控えめに。

見分け方

ほかの膝の内側の痛みとの見分け方

膝の内側が痛む病気は、鵞足炎だけではありません。

英国の研究者Rennieらの報告では、膝の痛みでMRIを撮った500人あまりのうち、鵞足の滑液包炎が見つかったのは約2.5%でした。つまり、内側の痛みの多くは別の原因、という見方もできます。

下の表は、あくまで目安です。診断は医療機関で受けてください。

痛む場所・特徴出やすい場面
鵞足炎関節の隙間より少し下、すねの内側の一点を押すと痛い階段の下り、走る、立ち上がり
変形性膝関節症膝全体や関節の隙間の内側。動き始めに痛み、水がたまることも起床後、歩き始め、正座
内側半月板損傷関節の隙間の内側。引っかかり感やロッキングひねる動作、深くしゃがむ
内側側副靭帯損傷関節の隙間の内側。けがのあとから痛い膝を外から押された、ひねった

こんなときは、先に整形外科へ

  • ぶつけたなど、けがのあとから痛い
  • 膝が赤く腫れて熱い、発熱がある
  • 夜、じっとしていてもズキズキ痛む
  • 膝が引っかかる、急に力が抜ける
  • 2〜3週間ケアしても良くならない

セルフケア

家でできるケア:ストレッチは「30秒」を数回

ストレッチは何秒伸ばせばいいのか。私が患者さんに一番よく聞かれる質問です。

2024年にオーストラリアのIngramらが、189件の研究・6,654人分をまとめた分析を発表しました(Sports Medicine)。結論はこうです。

  • 1つの筋肉につき、1回の運動で合計4分を超えても、柔らかさの伸びは変わらない
  • 1週間では合計10分あたりで頭打ち
  • 痛みが出るほど強く伸ばさなくても、効果は変わらない

1回の長さについては、米国のBandyらの試験が昔から有名です。太もも裏は30秒と60秒で差がなく、15秒だと足りませんでした。

日本では、西九州大学の中村雅俊先生(理学療法士)も、30秒を何回か積み重ねて、1か所あたり合計2分ほどを目安に紹介しています。

つまり、10秒でパッと終わらせるのは短すぎ。かといって、毎日30分も伸ばす必要もありません。

① 太もも裏(半腱様筋)|30秒×2回、慣れたら4回

椅子に浅く座り、片脚を前に伸ばしてかかとを床に置きます。背すじを伸ばしたまま、股関節から体を前に倒します。

太もも裏が伸びるところで30秒。呼吸は止めません。左右やります。

② 内もも(薄筋)|30秒×2回、慣れたら4回

あぐらの姿勢から、股関節から体を前に倒します。内ももがじんわり伸びればOKです。

強くやるほど効く、というわけではありません。「少し引っぱられる」くらいで十分です。

③ お尻の筋トレ:クラムシェル|10〜15回×2〜3セット

クラムシェル

横向きで膝を軽く曲げ、かかとをそろえたまま、上の膝だけを開いて閉じます。

お尻の横(中殿筋)を使うと、膝が内に入りにくくなります。ゆっくり動かして、最後の2〜3回が少しきついくらいが目安です。

④ ミニスクワット|10回

足を肩幅に開き、膝とつま先を同じ向きにして、椅子に座るイメージで浅くしゃがみます。しゃがむときは3秒かけて。

膝が内に入っていないか、窓ガラスに映して確認してみてください。

やってはいけないこと

痛い一点を、ゴリゴリ押したり揉んだりするのは避けましょう。

火事の現場に、薪をくべるようなものです。ほぐすなら、太もも裏や内ももの「筋肉の真ん中」をやさしく。

なお、鵞足炎だけに絞って、どの運動がいちばん効くかを比べた質の高い試験は、私が調べた範囲ではまだ多くありません。この記事の運動は、原因とされる「硬さ」と「膝が内に入るクセ」に合わせて選んでいます。

運動の注意点

運動を続けたい方へ

  • ランニング:走る距離を急に増やさない。膝が内に入っていないか、動画で撮ってみるのもおすすめです。
  • 自転車:サドルが低すぎると、膝が内に入るペダリングになりやすいです。サドルの高さを見直してみてください。
  • 平泳ぎ:あおり足は膝の内側に負担がかかります。痛む間は、ほかの泳ぎ方に変えるのも手です。

完全に休むかどうかで、迷う方は多いです。痛みが強い時期は量を減らして、痛みの出ない範囲で続ける。これが基本です。長く休みすぎると、今度は筋力が落ちてしまいます。

当院の施術

当院の施術の流れ

  1. 問診:いつ、どんな動きで痛むか、競技や仕事の内容をうかがいます。
  2. 検査:痛む場所に加えて、立ち方・歩き方・しゃがみ方、足のアーチ、股関節やお尻の力を見ます。
  3. 説明:痛みの原因をお伝えします。病院での検査が必要なときは、はっきりそう言います。
  4. 施術:硬くなった筋肉や関節へのアプローチ、テーピングなどをおこないます。
  5. 運動指導:自宅で続けられる、あなた用のストレッチと筋トレをお伝えします。

病院に行くほどでもない、という段階からで大丈夫です。

Q&A

よくある質問

Q. どのくらいで良くなりますか?

原因や程度で差があります。負担を減らしながらケアを続けて、数週間〜数か月で軽くなる方が多いです。

Q. サポーターや湿布は使ってもいいですか?

どちらも、痛みをやわらげる補助にはなります。原因そのものを変えるものではないので、体の使い方の見直しとセットで使ってください。

Q. 階段の下りだけ痛いのはなぜですか?

下りは、体重を膝で受け止めながら、膝が内に入るのを抑える動きです。鵞足の3本に、大きな力がかかります。手すりを使って、一段ずつ降りると楽になります。

Q. 立ち仕事やウォーキングで気をつけることは?

足に合った靴を選びましょう。アーチが低い方は、インソールも検討してみてください。

ひとりで悩まず、まずはご相談ください

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出典

参考文献

  1. Ingram LA, Tomkinson GR, d’Unienville NMA, et al. Optimising the Dose of Static Stretching to Improve Flexibility: A Systematic Review, Meta-analysis and Multivariate Meta-regression. Sports Med. 2024. doi:10.1007/s40279-024-02143-9
  2. Nielsen RØ, Parner ET, Nohr EA, et al. Excessive progression in weekly running distance and risk of running-related injuries: an association which varies according to type of injury. J Orthop Sports Phys Ther. 2014;44(10):739-747.
  3. Rennie WJ, Saifuddin A. Pes anserine bursitis: incidence in symptomatic knees and clinical presentation. Skeletal Radiol. 2005;34(7):395-398.
  4. Brigham and Women’s Hospital. Standard of Care: Pes Anserine Bursitis(リハビリテーション部門の資料)
  5. 中村雅俊「スポーツ現場におけるストレッチングの処方について」NSCA Japan 機関誌 Vol.30 No.1(2023年1-2月号)
  6. 日本整形外科学会・日本運動器科学会 監修『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』南江堂

この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。

この記事を書いた人

若林接骨院 院長 若林直人の顔写真

若林 直人
若林接骨院 院長
柔道整復師

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