腕枕のまま寝て、朝起きたら手首がだらんと垂れて持ち上がらない。そんなご相談を、私はこれまで何度も受けてきました。
この状態は橈骨神経麻痺といい、「サタデーナイト麻痺」「ハネムーン麻痺」「下垂手(かすいしゅ)」と呼ばれることもあります。
先に結論です
- 眠っている間の圧迫が原因なら、数週間から数か月で戻ることがほとんどです。
- 骨折のあとに出た麻痺も、手術をしなかった人の7割以上が自然に回復したという報告があります。
- 顔のゆがみやろれつの乱れを伴うときは、腕ではなく脳の病気の可能性があります。迷わず119番です。
橈骨神経麻痺とは
手首と指が上がらなくなる、神経のトラブル
橈骨神経は首から出て、二の腕の後ろ側を通り、手首と指を持ち上げる筋肉を動かしています。二の腕の骨(上腕骨)には、この神経が骨に沿って回り込む「らせん溝」という通り道があります。
骨のすぐそばを通るので、外から押されると逃げ場がありません。押された神経は電気が流れにくくなり、手首を反らす指令が届かなくなります。その結果、手がだらんと垂れる。これが下垂手です。
- 手首が反らせず、手の甲側へ持ち上がらない
- 指の付け根が伸びず、手を「パー」にできない
- 親指と人差し指の間の、手の甲側がしびれる
- 肘を伸ばす力は、保たれていることが多い
原因でいちばん多いのは、眠っている間の圧迫です。お酒を飲んで深く眠ると、苦しい姿勢でも寝返りを打ちません。腕枕、椅子の背もたれにかけた腕、パートナーの頭の下になった腕。一晩中押された神経が、朝になって音を上げます。
もうひとつは上腕骨の骨折です。2005年のシステマティックレビューでは、上腕骨の骨折のおよそ12%に橈骨神経麻痺が合併していました。
腕枕は愛情表現ですが、神経にとっては試練です。
セルフチェック
まず確かめたい、3つのこと
痛みが出ない範囲で、麻痺のある側の腕で確かめてみてください。力みすぎは禁物です。
- 手のひらを下にして腕を前に出し、手首を反らせるか
- 手を「パー」に開いたとき、指の付け根まで持ち上がるか
- 親指と人差し指の間の甲側を、反対の手で触って感覚が鈍くないか
1つでも当てはまるなら、整形外科か神経内科で診てもらってください。
受診の目安
すぐ病院へ行くべきサイン
こんなときは、先に病院へ
- 顔の片側がゆがむ、ろれつが回らない、足にも力が入らない → 119番(脳卒中の可能性)
- 転倒や事故のあとで、腕が変形している、強く痛む → 救急か整形外科
- 数日かけて悪化している、両方の腕に出ている → 早めに神経内科
朝起きたら片手が動かない。これは脳卒中と見分けにくいことがある、と韓国のJournal of Clinical Neurologyの報告にも書かれています。
麻痺の診断は医師の仕事です。当院は接骨院ですので、まず病院で原因を確かめていただき、そのあとの動かし方や生活のご相談をお受けしています。
病院で受ける検査
- 診察:手首と指の力、手の甲のしびれの範囲を確かめます。
- レントゲン:骨折がないかを見ます。
- 神経伝導検査・筋電図:神経に弱い電気を流して、どこで通りが悪いかを調べます。症状が出てから2週間ほどたたないと、異常がはっきり出ないことがあります。
- 超音波(エコー):神経が押されている場所や腫れを見る方法が、使われることもあります。
病院で聞いた言葉の読み替え表(タップで開きます)
| 病院の言葉 | やさしい言い換え |
|---|---|
| 下垂手(かすいしゅ) | 手首が垂れて、持ち上がらない状態 |
| ニューラプラキシア | 神経が切れずに、一時的に働きを止めた状態。数日から数週間で戻ることがあります |
| 伝導ブロック | 神経の途中で、電気の流れが止まっている状態 |
| 保存療法 | 手術をせず、装具などで経過を見る方法 |
| 装具(スプリント) | 手首を軽く反らせた位置で支える道具 |
回復の見通し
どれくらいで治るのでしょうか?
原因が骨折なのか、眠っている間の圧迫なのかで、見通しは少し違います。研究の数字を2つだけ紹介します。
- 骨折に伴う麻痺:手術をせず経過を見た人の自然回復は77.2%。7,262件の上腕骨骨折をまとめた再解析です。
- 眠っている間の圧迫:韓国の25人の報告で、回復のきざしが出るまで平均2.4週。17人は2週以内でした。最初に戻ってきたのは感覚です。
指が動くまでには、感覚より時間がかかります。2週間たってもまだ動かないからといって、あわてなくて大丈夫なことは多いです。
骨折を伴う麻痺は、手術をするかどうかで研究の結果が割れています。2020年の再解析では、3週間以内に手術をした群の回復が89.8%と高くなりました。別のレビューでは、手術をした群と経過を見た群で回復に差はありませんでした。
どちらが合うかは、骨折の形やお体の状態で変わります。神経が切れている場合もあるので、手術が必要かどうかは医師と相談して決めてください。
自宅でできるケア
1分×2回の、関節を固めないケア
正直にお話しします。麻痺した手首を伸ばせば回復が早まる、と示した大きな研究を、私は見つけられていません。
ここでの目的は、神経を治すことではありません。回復を待つあいだに、手首と指の関節が固まらないようにすることです。医師から装具を渡されているときは、その指示を優先してください。
合計2分のメニュー
- 手首の反らし:麻痺した手を反対の手で支え、手の甲側へゆっくり反らして30秒キープ。2回。
- 指の付け根の持ち上げ:麻痺した指先を反対の手で支え、指の付け根を軽く持ち上げて30秒キープ。2回。
やってはいけないこと
- 強く引っぱる、反動をつける
- 痛みやしびれが増えているのに続ける
- 麻痺した二の腕を強く揉む
- 感覚が鈍い手を、熱いお湯やカイロで温め続ける(やけどに気づきにくくなります)
再発を防ぐには、寝方と座り方の見直しが近道です。腕枕をしない。飲んだ日はソファで寝落ちしない。椅子の背もたれに腕をかけたまま長居しない。松葉杖の脇当てに体重を預けない。

豆知識
手首は垂れるのに、指先は伸びる?
橈骨神経麻痺でも、指先の2つの関節(第1・第2関節)は伸ばせることがあります。指先を伸ばす仕事は、手のひら側の小さな筋肉が受け持っていて、動かしている神経が別だからです。
伸びないのは指の付け根です。「パーができないのに、指先だけは伸びる」という不思議な見た目になります。飲み会で披露するには地味ですが、手の神経は役割分担がおもしろいのです。
よくある質問
よくあるご質問
お酒を飲んで寝て起きたら、手が上がりません。何日で治りますか?
個人差はありますが、回復のきざしが出るまで平均2.4週という報告があります。完全に戻るまでは、数週間から数か月を見ておいてください。ただし朝いちばんの麻痺は脳の病気との見分けが要るので、先に病院で診てもらってください。
マッサージや電気で、早く治りますか?
圧迫で起きた麻痺は、神経が自分で回復する力に頼る部分が大きいです。揉めば早まるという確かな研究は、私は見つけられていません。強く押すとかえって負担になるおそれがあるので、麻痺した側の二の腕は強く揉まないでください。
手のしびれが気になる方は、手根管症候群の記事や手の不調のページもご覧ください。
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参考文献(タップで開きます)
- Shao YC, et al. Radial nerve palsy associated with fractures of the shaft of the humerus: a systematic review. J Bone Joint Surg Br. 2005;87(12):1647-52.
- Radial Nerve Palsy Recovery With Fractures of the Humerus: An Updated Systematic Review. J Am Acad Orthop Surg. 2020;28(6):e263-e269. PMID: 31714418.
- Radial nerve palsy associated with closed humeral shaft fractures: a systematic review of 1758 patients. Arch Orthop Trauma Surg. doi:10.1007/s00402-020-03446-y.
- The Usefulness of Proximal Radial Motor Conduction in Acute Compressive Radial Neuropathy. J Clin Neurol. 2015;11(2):178-182.
- Han BR, et al. Clinical Features of Wrist Drop Caused by Compressive Radial Neuropathy and Its Anatomical Considerations. J Korean Neurosurg Soc. 2014;55(3):148-151.
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「単神経障害」(橈骨神経麻痺の項).
- MSDマニュアル 家庭版「単神経障害」.
この記事は一般的な情報です。診断や治療の代わりにはなりません。気になる症状があるときは、医療機関で診察を受けてください。

この記事を書いた人
若林 直人
若林接骨院 院長
柔道整復師
